Guest Profile
大橋 康宏(おおはし・やすひろ)
1981年、早稲田大学大学院理工学研究科(修士課程)を卒業後、AIU損害保険株式会社入社。96年、株式会社テイツーに入社、2001年3月より10年間同社代表取締役社長に就任。12年株式会社ラストリゾートジャパンを設立、現在は会長を務める。 <カンパニーデータ> 業 種 ● 事業戦略コンサルティング、地域活性化支援事業 設 立 ● 2012年10月10日 資本金 ● 500万円 所在地 ● 東京都豊島区要町2-7-12 アーバンコンフォート2F (オフィス) 電 話 ● 03-6316-6224 URL● http://lastresort-japan.co.jp
特集"本当の地方創生”
1.春先こそがカキの旬であることが実証された
雑談中の会話が急展開してビジネスに結びついた。
「カキ小屋の経営に関心のある人がいる」――雑談相手のベンチャーキャピタリストが、その場でカキの出荷量で国内トップクラスのクニヒロ(広島県尾道市)に電話を入れたことから、ビジネスは始まった。
ベンチャーキャピタリストと対していたのは大橋康宏。JASDAQ上場のリユース企業、テイツーの社長を10年務めて2011年に退任した。1年間を充電期間に当てていたが、この間に旧知のベンチャーキャピタリストと会って、佐賀県や福岡県で食べ歩いたカキ小屋への関心を話した
「おいしいし、自分で焼くのは楽しく、価格もリーズナブルだ。しかし、カキの仕入先と現場を運営するスタッフの確保は簡単ではないだろう」
その途端、電光石火の勢いで電話を入れてくれたのだった。
大橋は当時55歳。これから手がけるビジネスを模索し、事業主体としてラストリゾートジャパンを設立した。着眼したのはベンチャー経営者の支援と、地域の特産品を首都圏で展開したい地方の企業や地方自治体などの支援事業である。目に留まったのがカキ小屋で、大橋はクニヒロと歌舞伎町タウン・マネージメントの共催を得て、「瀬戸内ひろしま春牡蠣フェスタ2014」を実現させた。
このイベントは昨年3月1日から30日にかけて、新宿区立大久保公園で開催された。広島県産のカキを使用し、カキ小屋と同じくバーベキュー方式を取ったところ、来場者は2万4000人に及び、1~2時間待ちの行列が続いたほか、開催期間中に8回も来場した人がいたという。客単価は大衆居酒屋並みの2800円に達したので、1ヵ月で約6720万円を売上げたのだ。
雑談から商談への進展はよくあるケースだが、商機に対する主体者の吸引力と推進力次第で結実もするし、霧消もする。大橋の場合、上場企業の社長を10年務めたバックボーンがある。小さな取っ掛かりさえ得れば、業種が何であれ、ビジネスに組み立てるのは普通の行為だったのだろう。
それにしても、なぜ3月にカキのイベントを開いたのか。
一般にカキは冬の食材として知られるが、生産者の間では「3月から4月にかけて採れるカキが最も風味があっておいしい」と評価されている。この通説は広島大学生物圏科学研究科の羽倉義雄教授の研究チームによって実証された。
研究チームが1年を通じてカキに含まれる成分含有量の変化を調査したところ、産卵期直前の3月から4月に、うま味成分のグリコーゲンとアミノ酸の含有量が最大になることが解明された。カキの食べ頃は冬ではなく、生産者間で定評となっていた春先であることが実証されたのだ。
研究結果が判明したのは11年だから、大橋にとっては実にタイムリーだったと言えよう。イベントのテーマは「やっぱり、春カキが一番じゃろ!」と設定した。
2.さらに中身が充実した今年のフェスタ開催中!
大橋がイベントで重視したのは、あくまで商品の品質を的確に普及させることだった。昨今の地方創生ブームについて大橋は懐疑的だ。
「地方創生という考え方は問題ないが、補助金の交付がメインとなっては活性化が実らない。補助金でアンテナショップを開設しても、予算を使い終えたら中断してしまうのでは意味がない」
プロモーションにも異議を述べる。
「ゆるキャラを作ったり、特産品に奇抜なネーミングをしたりするなどの方法が目につくが、これでは一時的な手段にすぎない。本物を選別し、流通経路を開拓してマーケティングとプロモーションをしっかりと行なわないと、長期的なビジネスに発展しない」
イベントに使用するカキはクニヒロが供給した。「平成26年広島かき生産出荷指針」によると、国内のカキ生産出荷量の約70%(2012年)を占める広島県で、同社は県内シェア約24%の年間約5000㌧を取り扱っている。品質管理体制も強化し、ノロウイルス検査機器の導入や高速液体クロマトグラフィによる貝毒検査、さらに自社と公的機関での二重検査などを実施している。
今年は「広島春牡蠣フェスタ2015」に名称を変え、大久保公園で開催されている。期間は昨年より約2週間長く、2月21日から4月5日まで。期間中の3月5日から11日には「東日本大震災復興支援ウイーク」と銘打って、三陸産のカキが1㌔㌘1600円で販売された。
イベント会場は公園内に全天候型ユニットハウスを設営し、3~5人掛けのテーブルが44卓、24人掛けの団体向けテーブルが3卓、これに1~2人向けのカウンター席も加わって、総席数268席が設えられている。
食べ方は昨年と同じくバーベキュー方式で、客が冷蔵ショーケースからピックアップして、自ら焼くのだが、カキ以外にもホタテ貝、タラバ蟹、牛フィレ、サラダ、ジェラートなどメニューが豊富である。ショーケースの前に立つ客の動作を見ていると、男女の別なく、あちこちの食材に目移りしてしまい、かなり迷う様子だ。
こうしたメニュー強化は今年の重点テーマだった。
「昨年と同じ内容ではやる意味がない。進化させなければならない」と考えた大橋は、今年の取り組みとして「メニューを充実」させた。昨年に比べて品数を約60%増やし、フード32品、ドリンク16品、トッピングソース5品を用意した。
さらに目玉メニューとして打ち出したのが、1月から4月頃にかけて身が緑色に染まる「グリーンオイスター」(1個400円)。フランスのマレンヌオレロン地方では“幻の緑牡蠣”と呼ばれるブランドカキである。カキが塩田特有の植物プランクトンを食べて身を緑色にさせるのだが、甘みが出て、まろやかな味に仕上がる。日本ではFARM SUZUKI(広島県豊田郡)が瀬戸内海の大崎上島で、国内で初めてフランスと同じ方法と養殖環境を整備して生産している。
来場客も次々にグリーンオイスターに飛びつき、スタッフは冷蔵ショーケースに補充を繰り返していた。このイベントを通じて大橋は「カキに続くキラーコンテンツを見つけ、市場の創造を目指す」と抱負を示した。